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最高裁判所第三小法廷 平成元年(行ツ)165号 判決

埼玉県大宮市中釘二二五七番地

上告人

株式会社 共和製作所

右代表者代表取締役

高須祥光

右訴訟代理人弁護士

岩谷彰

同弁理士

鈴木秀雄

兵庫県洲本市宇山一丁目四番六号

被上告人

株式会社 洲本整備機製作所

右代表者代表取締役

番所五平吉

右訴訟代理人弁護士

吉武賢次

神谷巖

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第二一九号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年九月一二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩谷彰、同鈴木秀雄の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、引用にかかる当裁判所の判例の趣旨に抵触するところもない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 坂上壽夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄)

(平成元年(行ツ)第一六五号 上告人 株式会社共和製作所)

上告代理人岩谷彰、同鈴木秀雄の上告理由

平成元年一一月一〇日付の上告理由

第一 原判決は、本件考案の要旨の解釈に必要不可欠な明細書における本件考案の目的と作用効果の記載及びそれと密接な関係を有し本件考案の請求の範囲にも敢えて限定明記されている自動車用洗車装置についての産業上必要とされる性能上の必須の要件を含む出願時の技術水準を全く考慮することなくその要旨の判断をなし、あまつさえ明細書に記載も示唆も全くされておらない要件を加えて結果的に本件考案の目的を全く達成できないことになることを考慮せずにその要旨を曲解すると共に、その誤つた要旨の判断を前提として進歩性の判断をなしたものであるから、実用新案法第五条第三項、第四項及び同法第三条第二項の規定に違反する。

また原判決には、右判断をなすに当つて、経験則に違反するか、又は理由不備ないし審理不尽の違法がある。

さらに原判決は、右不当な判断によつて、新規性、進歩性を有し産業上有用な本件考案に係る実用新案権を遡及的に消滅せしめんとするものであるから、実用新案法第一条(法目的)、憲法第二九条(財産権の不可侵)及び憲法第三二条(公正な裁判を受ける権利)の規定に違反するものである。

右各違法事由はいずれも判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を免れないものである。

第二 実用新案法第五条第三項、同条第四項違反

一 原判決は、本件考案の要旨中の水源、貯湯室及び温水タンクの構造に関する限定事項並びにそれを備えた構成に基づく顕著な作用効果についての原告(上告人)の主張に関し、次のとおり判示する。

(一) 「本件考案の貯湯室28に接続する水源は連続給水機能を有しかつ給水圧が貯湯室28の水頭圧以上のものに限定され、貯湯室28は大気に連絡しない密閉されたものに限定され、したがつて貯湯室28からの給湯圧は水源の給水圧が維持され、かつ、温水タンク6はフロートバルブを内蔵し、したがつて自動給水制御機能を有するものに限定される…」とする原告(上告人)の主張は、本件考案の要旨に基づかない恣意的なものである(原判決第二〇丁裏第一〇行~第二一丁表第九行)。

(二) 明細書あるいは別紙第一図面のいずれにも、本件考案の水源が連続給水機能を有し、かつ貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有するものに限定される旨の記載は認められない。

のみならず、本件考案は、水源が貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有するものであれば足り、その水源が水道のように連続給水機能を有しなければその作用効果を奏し得ないものではない(同第二一丁表第一〇行~同丁裏第五行)。

(三) 明細書には、本件考案の貯湯室28は大気に連絡しない密閉されたものに限定される旨の記載は認められない。(中略)実用新案登録請求の範囲には(中略)限定して解すべき根拠を見出すことはできない(同第二一丁裏第六行~第二二丁表第三行)。

(四) 明細書には、本件考案の温水タンク6がフロートバルブを内蔵し、したがつて自動給水制御機能を有するものに限定される旨の記載も認められない。(中略)実用新案登録請求の範囲には、(中略)限定して解すべき根拠を見出すことはできない(同第二二丁表第四行~同丁裏第三行)。

(五) 原告が周知の技術として援用する甲号各証を参照しても、これら(右限定事項)を明細書における本件考案の目的及び構成の記載並びに本件出願当時の技術水準から論理必然的に導き出される事項と解することはできない(同第二二丁裏第一一行~第二三丁表第三行)。

二 しかしながら、右原判決の本件考案の要旨及び頭著な作用効果に関する判断は、明細書における本件考案の目的及び作用効果の記載並びにそれと密接な関係を有する前記上告人援用の出願時の技術水準の技術内容を看過し、その結果要旨の実質的意味の解釈を曲解したものであり、誤りである。すなわち、

(一) 本件考案は、請求の範囲にも限定明記されている自動車用洗車装置に関し、ボイラーの温水供給能力(単位時間内の温水供給量)の増大とボイラーの単独運転の実現により作業能率の向上を図ること、一般給湯など温水の多目的利用を図ること、および凍結防止のためのボイラー内の水抜きを不要となすことを目的とし、この目的・作用効果を達成するために、(イ)「水源に貯湯室28を接続し、貯湯室28に手洗用の配管を分岐接続した配管(送湯管)4を介して温水タンク6を接続し、温水タンク6を配管を介して送場ポンプ9に接続する」こと、および(ロ)「加熱室27に貯湯室28の温度調節器30と連動する燃焼装置を設け、燃焼装置と送湯ポンプ9を作動させる操作スイツチ32・31を夫々個別的に作動し得るように分離して設ける」ことを必須の構成となしている。

しかして右目的・作用効果を達成するためには、右構成の貯湯室28内の水位が常時一定水位(満水状態)に維持されていること即ち貯湯室28内に原判決も認定しているごとく水頭圧以上の圧力で水源から自動的に給水がなされていることが必要不可欠の条件である。その理由は次のとおりである。

(二)1 前項(ロ)の構成に関し、明細書には次の記載がなされている。

a 「電気系統は、送湯ポンプ系統と燃焼装置系統とに分離して構成されている。即ち、送湯ポンプ系統においては、スイツチ31を入れると送湯ポンプ9の駆動モータ16が作動し、(中略)一方燃焼装置系統においては、スイツチ32を入れるとモータ24が作動して(中略)燃料油が燃焼される。」(甲第二号証第三欄第一四行~第二五行)

「貯湯室28内には温度検出器29が設置されており、この温度検出器29の指令に基づいて温度調節器30が動作するようになっているが、この温度調節器30と燃焼装置とは連動しており、したがって貯湯室28内の水温が温度調節器30で設定された温度に達すると温度調節器を介して自動的に燃焼が止められ、設定された温度より下降すると自動的に再び燃焼することによって常に貯湯室28内の水温が一定温度に維持されている。」(同第三欄第二六行~第三五行)

b 「事前にボイラーにおける燃焼装置を動作せしめておくことにより使用の都度直ちに温水洗車を行なうことができ従来の洗車装置に比して洗車作業を遙かに能率的に行なうことができる。」(同第四欄第一二行~第一五行)

右a、bの記載は、温度調節器により燃焼装置を電気的に自動制御することによってボイラーの単独運転を自動的に安全に行ない得ること、およびそのボイラーの自動運転によって貯湯室内の水温が常時設定温度に維持されていつでもその温水の使用が可能であることを示しており、そのためには、又、貯湯室内の温度検出器29の水温検知の動作の確実性のためにも、貯湯室28内に常時満水状態に給水がなされていなければならない。そして、右aの記載中の「常に貯湯室28内の水温が一定温度に維持されている。」の点及びbの記載中の「使用の都度直ちに温水洗車を行なうことができ」の点は、貯湯室28に対する水源からの自動給水を当然の前提としていることを端的に示している。

2 また前項(イ)の構成に関し、明細書には次の記載がなされている。

a 「従来の洗車装置は、ボイラー内にパイプをラセン状に巻いた加熱コイルを配設し、加熱コイル内に導入された水をバーナにて加熱して温水となし(中略)、この場合には、加熱コイルの内径が小さいためスケール等の付着によって目詰りを生じ、その結果水量不足による送湯ポンプの故障のおそれがある。又加熱コイルはラセン状に巻回されているためパイプの配設距離が長く、したがって管内抵抗が大となるので単位時間内における温水供給量が限定され水圧の低いところでは送湯ポンプの空回転につながり使用困難であるという欠点を有している。」(同第一欄第一八行~第三四行)

b 「本考案は、(中略)前記従来の洗車装置が有する諸欠点を除去し(中略)目的とする。」(同第二欄第一五行~第二一行)

c 「本考案は、(中略)加熱室とボイラー内壁との間の空間部を貯湯室となし該部内に水を導入して加熱室により加熱するようになしたので、(中略)、従来のように加熱コイル内に目詰りを生じ水量不足による送湯ポンプの故障等が発生する問題はなく、構造上管内抵抗も小さく従来に比して大容量のものとなすことができるため単位時間内における温水供給量を増大することができる。」(同第三欄第三七行~第四欄第六行)

右加熱コイルを用いた従来の洗車装置の欠点である「単位時間内における温水供給量が限定され、水圧の低いところでは送湯ポンプの空回転につながる」の単位時間内における温水供給量とは、加熱コイルから水源(水道)の給水圧にて温水タンクヘ一定時間連続給湯した際の単位時間内の温水供給量という意味であり、加熱コイル内に収容した水を使用に伴う減少分の補給をすることなく加熱して温水となしその温水を加熱コイルの水頭圧にて送湯ポンプヘ給湯する際の単位時間内の温水供給量という意味ではない。

右従来の自動車用洗車装置が加熱コイルに対する水源(水道)からの自動給水を前提としていること、および温水タンクを介して送湯ポンプヘ給湯する必要があることは、右「水圧の低いところ」の記載および加熱コイルの構造自体から明らかである。即ち、「水圧の低いところ」とは地域により給水圧が異なること、したがって右水圧とは「水道」の給水圧を指称しているものである。又、加熱コイルはその構造上内蔵水容積が小さく伝熱面積が大きいものであるから、常に自動的に連続通水する状態でないと加熱できないものであり、そのため加熱コイルに自動的に給水し内部で加熱された温水を順次連続的に温水タンクヘ給湯して温水タンク内に一定水量貯留し送湯ポンプヘの給湯に供する必要があると共に、加熱コイル内で発生した高温高圧の加熱蒸気を解放して送湯ポンプヘの給湯に供する必要があるものであるからである。加熱コイルのパイプ内は密閉であるから、加熱コイル内で加熱された温水は加熱コイルに加えられている水源(水道)の給水圧にて温水タンクヘ自動的に給湯されるものであり、そのため温水タンクはその自動給水を制御する機能を持つものでなくてはならず、温水タンク内には、送湯ポンプの作動による温水タンク内の水位変動をフロートにて検出しその水頭位に伴いフロートに一体に組み込まれて連動するバルブの開閉により自動給水を制御することを目的とするフロートバルブが内蔵されており、それによって温水タンク内の水位調整が図られると共に、加熱コイルに対する水源よりの給水制御も自動的になされる。

右加熱コイルを用いた従来の自動車用洗車装置の水源と温水タンクを含む構造については、原審決で自動車用洗車装置において温水タンクと送湯ポンプを配管接続することが周知である例として援用された甲第六号証、この具体的技術内容である甲第一七号証の一、二、更に甲第一六号証に係る本件自動車用洗車装置の出願時の技術水準を参照すれば明らかである。

即ち、右出願時の技術水準である従来の自動車用洗車装置は、ボイラー内にパイプをラセン状に巻いた加熱コイルを配設し、これに導入された水をバーナにて加熱して温水となし、この温水を洗滌液と混合して洗滌銃より噴射するものであるが、加熱コイルを用いたボイラーの構造の特性上、いずれも加熱コイルに対する水源として自動給水機能を有する水道を直結しており、加熱コイルの出口側を配管を介してフロートバルブを内蔵する温水タンクに接続し、温水タンクを送湯ポンプに配管接続する構造となっている(右甲各号証)。

また、この出願時の技術水準に係る自動車用洗車装置は、この他に、(1)加熱コイル内に缶石(スケール)が付着する(甲第一七号証の一、第一二頁g)、(2)ボイラーの単独運転が不可能(加熱コイル内への通水を前提としてボイラーの運転をする必要上)(甲第一七号証の一、第一八頁の南海一五〇〇配線図)、および(3)凍結防止のための加熱コイル内の水抜き作業が必要(甲第一七号証の一、第一七頁第五行~第六行)という前記本件考案の明細書に記載されている従来の自動車用洗車装置と同一の欠点を有しており、両者は同一構造のものである。

ちなみに右出願時の技術水準の自動車用洗車装置は水源として、給水圧が一・〇キログラム/平方センチメートル以上、単位時間当りの給水量、即ち連続給水流量が一三リツトル/分以上の水道を用いている(甲第六号証第三五頁左欄第三五行~第三六行、甲第一七号証の一、第六頁第八行~第九行)。

このように従来の自動車用洗車装置は、使用時には水源(水道)より加熱コイル内に自動的に給水して加熱し、その温水を加熱コイルを通して水源の給水圧にて温水タンクに連続的に給湯して一時貯留し、送湯ポンプへの給湯に供しているものであるから、その加熱コイルから水源の給水圧にて連続給湯する温水タンクへの単位時間当りの温水供給量の増大を目的とする本件考案においては、加熱コイルを貯湯室となすボイラーを用いたとしても、使用に伴う減少分を自動的に補充することなく単に貯湯室内に満水に収容した水を加熱して貯湯室の水頭圧以下にて温水タンクへ給湯する間欠給水にて使用する場合には、到底右従来装置の単位時間内の温水供給量の制約を解消してその増大を図ることはできず、右目的を達成するためには右従来の洗車装置と同様に、貯湯室内を常時満水状態に維持することを可能とする給水圧と給水量を有する水源にて貯湯室に対して自動的に給水をなすことが必要不可欠である。

すなわち、本件考案と従来の自動車用洗車装置とは、貯湯室の水源に対する接続構成とボイラーの温水タンクを介した送湯ポンプへの給湯配管構成の点では共通しているものである。これは、本件考案の請求の範囲に右接続及び配管構成が必然の構成として記載しているにもかかわらず、考案の詳細な説明に特に温水タンクについての作用が明記されていないと共に、従来の洗車装置の構造の点においても温水タンクが明記されていないことから、明らかである。

つまり、考案の詳細な説明においては、両者の顕著に相違する構成とそれに伴う問題点と作用効果を対比して説明し、両者に共通する構成およびその作用については同一であり公知に属する事項であるからその説明を省略しているということである。そして、それ自体公知に属するものであっても本件考案の前提をなす必須不可欠の事項であるから、それを請求の範囲に明記しているのである。

3 また、前項(イ)、(ロ)の構成に関し、明細書には次の記載がなされている。

a 「大容量の貯湯室28となしたこととボイラーにおける燃焼装置を送湯ポンプ9と分離して単独に操作せしめるようになしたこと、およびその燃焼装置は貯湯室28内の温度制御をなす温度調節器30と連動するようになしたことにより、冬季における不使用時において燃焼装置の操作機構をオンにしておけば貯湯室内の水温の下降に伴い自動的に燃焼装置が動作し、したがって従来の洗車装置のように加熱コイル内の水の凍結によるボイラーの破損を防止するために一々ボイラー内の水抜きをする等の煩雑な作業を行なう必要が全くない。」(同第四欄第一七行~第二八行)

b 「温水供給量が大容量であることおよび常時温水を供給することができることと相まって送湯管より手洗用の配管を分岐接続することによって、洗車のみならず手洗用の温水を使用することができる等装置を多目的に使用することができる。」(同第四欄第三四行~第三九行)

右a、bの記載はいずれも、本件考案の貯湯室28内には常時満水状態に給水がなされていることを前提とすることが示されている。けだし、凍結防止のためのボイラー内の水抜き作業の不要を温度調節器による燃焼制御を介してボイラーの単独運転により図るということは、不使用時にボイラー内に自動的に満水状態に水が残留するからである。又右bの点は、ボイラーの単独自動運転により何時でも温水を本来の洗車用のみならず一般給湯にも使用できるというものであり、斯かる作用効果を奏し得るのは貯湯室内に常時大容量の温水(満水状態)がボイラーの水頭圧以上の圧力で連続給湯可能な状態で貯留されているからに他ならない。即ち、右bの記載内の「常時温水を供給することができる」の点は、貯湯室28に対する水源からの自動給水を当然の前提としていることを端的に示している。

4 更に、本件考案の貯湯室28の水位は常時一定水位(満水状態)に維持されていなければならないことは、請求の範囲における前記ボイラーの送湯ポンプに対する給湯配管構成自体からも明らかである。

すなわち、貯湯室28は配管4を介して温水タンク6に接続しているものであるが、本件考案には引用例1における水室内の水位変動に対応して変位する浮板8や浮子9を用いる技術的思想は全く開示されておらず、明細書と図面の他の記載からも明らかなとおり、この配管4の接続位置は固定であり、しかも対流による温水の有効利用の見地からその接続位置は貯湯室の上側部となすのが自然である。

すると、貯湯室28から温水タンク6へ配管4を介して給湯することが可能となるためには、常時貯湯室28内の水位が満水状態に維持されていなければならないこと当然である。自動給水がされず、使用に伴い水位が低下するような場合には、右配管4を介した温水タンク6への給湯は困難となる。

(三)1 以上のとおり、本件考案においては前記目的・作用効果を達成するためには、貯湯室28内の水位が常時一定水位(満水状態)に維持されていることが必要不可欠である。したがって貯湯室28に対する水源は、その給水量と給水圧とを満足するもの、即ち、給水圧が貯湯室28の水頭圧以上であって、かつ連続給水機能を有するもの、換言すれば貯湯室28に対し常時その給水圧が加えられ自動的給水を行なうものに限定されるこというまでもない。

なお、貯湯室28の水頭圧以上の給水圧とは、貯湯室28内を常時満水にすることが不可能な貯湯室28の水頭圧以下の給水圧と区別するために便宜上用いたもので、その実質的な意味は貯湯室28の水頭圧より高い給水圧ということである。

原判決が言う「貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有するが、連続給水機能を有しない水源」とは、一体どのような水源をいうのか必ずしも意味が定かではないが、自動給水をしないというものであるから、貯湯室28内を満水にした後は水源と貯湯室28が何等かの手段(人為的)で遮断されて水源の給水圧が貯湯室28に対して加えられないもの、つまり使用に伴う温水の減少分を補充しないで使用の都度人為的に給水をなす間欠給水のものを指称すると考えられる。

しかしこのような間欠給水によるものは、引用例1と同様に使用に伴って貯湯室28内の水位が低下(したがって水頭圧も低下)し貯湯室28内の水位を常時一定水位(満水状態)に維持できないものであるから、貯湯室28から配管4を介した温水タンク6への給湯が困難となり、更に温水の多目的利用も不可能となって、到底前記本件考案の目的・作用効果を達成できないものであり、本件考案の要旨外のものである。

また、原判決が示す右水源が貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有する、との点は、右給水圧が常に貯湯室28に加えられているという意味であるならば、それはとりもなおさず、常に貯湯室28内を満水にする給水が可能であり、同時にその給水圧がボイラーの水頭圧以下とならない限り常に連続給水機能を当然に有するものとなるから、水源の意味の技術的常識に反する判断といわねばならない。

そもそも水頭圧とは、例えば引用例1のごとく分室5によって大気に開放されているボイラーにおいては、その分室5を含めてその中に貯めることのできる(外部に溢水することなく)最高水位によって発生する水圧のことをいい、したがって引用例1のボイラーは常に水頭圧以下(水室からの給湯圧)での使用が絶対条件であり、水頭圧以上での使用を可能とするには密閉型ボイラーを使用することが絶対条件であることは技術的常識である。

2 以上のように、本件考案の「水源」が上告人主張のものに限定されることは明細書に充分に示唆されているものであるが、原判決は別紙第一図面にも水源が右に限定される旨の記載が認められない、と判示する(判決第二一丁表第一〇行~裏第二行)。

しかしながら、図面において、水源は逆止弁5と給水管3を介して貯湯室28の下側部に接続され、一方、貯湯室28の上方には送湯管4が立ち上がって貯湯室28より高所に位置するフロートバルブを内蔵した温水タンク6に接続されていることが示されている。

これは貯湯室の上方高所にまで給湯可能であること、即ち水源の給水圧が貯湯室28の水頭圧以上であって連続給水機能を有するものであることを端的に示している。また斯かる給湯が可能となるのは、図示の如く貯湯室28が大気に連絡しない密閉構造で水源の給水圧を解放することなく保持しているからに他ならない。また逆止弁5は、密閉構造のボイラー内で発生した高圧温水が水道に逆流しないように水道法の規定に基づき設けられているものである。さらに、温水タンク6内のフロートバルブ7は温水タンク内の水位を自動的に調整して給水制御を図るものであり、貯湯室28から送湯管4を介して自動的な給湯がなされることを前提とするものである。

したがって、図面において本件考案の「水源」の右限定事項は充分に開示されているといわなければならない。

(四)1 貯湯室28は給水管3と逆止弁5を介して水源に接続しているものであるが、貯湯室28には水源から右給水圧と給水量にて自動的に給水されてその給水圧(貯湯室28の水頭圧以上)が常に加えられている。

そして貯湯室28には温水タンク6に取り付けられているフロートバルブ7のような自動給水制御手段或は水源との接続・遮断をなすストツプバルブのような手段は設けられていないものであるから、もし貯湯室28が大気に連絡した開口部を有するものであれば、水源の給水圧は貯湯室28の水頭圧以上であるためその給水が右開口部より溢水し続ける不都合な事態となる。それ故貯湯室28は大気開放であってはならず、大気に連絡しない密閉されたものでなければならないものであり、それに限定されるものである。

このように貯湯室28が大気に対して密閉構造のものであるから、貯湯室28から配管4を介して温水タンク6へ給湯する給湯圧は、貯湯室28に加えられている水源の給水圧が維持されるものであること当然である。

2 前記のとおり、本件考案はボイラーの単独自動運転によりボイラー内の残留水の凍結によるボイラーの破損を防止し、凍結防止のためのボイラー内の水抜きを不要となしている(第四欄第一七行~第二八行)。

このような凍結防止手段を講ずる必要があるのは、貯湯室28が大気に開放されない密閉構造であるからである。もし大気開放構造であるならば、貯湯室28内の水が凍結しても、例えば上部を開口とするドラム缶が凍結によって破損されることがないように、凍結による体積膨張分は貯湯室の開口部において吸収されてボイラーが破損するおそれはないから、ボイラーの単独自動運転により凍結防止を図る必要性が全くない。

3 本件考案の貯湯室28は、「ボイラー本体内に加熱室を、該加熱室とボイラー本体内壁との間に空間部を有するように設け、該空間部を水源に接続する貯湯室となした」ものであるが、この構成には、引用例1の縦筒(分室)5のような大気開放口を有することないしはそれを示唆するものは全くなく、明細書のその他の記載および図面においても同様である。実施例として示されているのは、原判決でも認めているように、図面上明らかである密閉構造のもののみである。

元来、ボイラーとは「密閉した銅板製の容器内で水を加熱し、これを蒸気化して高温・高圧の蒸気を発生させる装置」(昭和四四年三月二〇日日刊工業新聞社発行、図解工業用語辞典)(甲第二七号証)をいうものであるから、大気開放口を示す構造のものでない限り、密閉構造のものと一般的に認識されているものである。

したがって、右のとおり大気開放口を示すものが全くないにもかかわらず、密閉の明示の記載がないとの一事をもって「本件考案の貯湯室は密閉に限定されない」とする判示は、経験則違反である。

なお、引用例1の水室3の分室(縦筒)5が大気開放構造であることは、もし密閉構造であるならば加熱蒸気の逃げ場がなくその圧力によって引用例1が目的とする温水の早期利用を図るために分室5の上面部にまで温水を上昇させることができなくなることから、明らか。

4 前記のとおり本件考案は、送湯管4より手洗用の配管を分岐接続して一般給湯等温水の多目的利用を図ることを目的としており、図面においてこの送湯管4は貯湯室28の上方に立ち上がっていて、貯湯室28の上方高所にまで給湯できるものであることが示されている。

このような給湯が可能となるためには、単に貯湯室28に対する水源が貯湯室28の水頭圧以上の給水圧で自動給水するもののみでは不可であり、貯湯室28が大気に連絡しない密閉構造であることを必要とする。けだし、大気開口部を有するものであれば、貯湯室28の水頭圧以上である水源の給水圧は貯湯室28の水頭圧との差圧分が大気開口部からの溢水によって解放されて、貯湯室28からの給湯圧は貯湯室28自身が持つその水頭圧となるため貯湯室28の上方高所までの給湯はできなくなるからである。

したがって、右給湯を満足するために、貯湯室28は大気に連絡しない密閉構造でなければならないのである。

5 明細書には、「(貯湯室となしたので、管内抵抗の大きい加熱コイルに比べて)管内抵抗も小さく(中略)単位時間内の温水供給量を増大することができ、」(第四欄第三行~第六行)と記載されている。

管内抵抗とは、管体内を流通する流体に対して作用する管体自身の抵抗ということであるから、密閉構造の加熱コイルとの比較において貯湯室の管内抵抗の大小を指摘する右記載は、貯湯室が密閉構造であることを前提としているものである。

また、前記のとおり貯湯室28と水源との間に介在されている逆止弁5は、貯湯室28内で発生した高圧温水が水道に逆流するのを防止するためのものであるから、この逆止弁5の存在は貯湯室28が大気に連絡しない密閉構造のものであることを示している。

以上から明らかなとおり、本件考案の貯湯室は大気に連絡しない密閉構造のものに限定され、したがって貯湯室からの給湯圧は水源の給水圧が維持されるものである。

(五)1 温水タンク6は配管4を介して貯湯室28に接続している一方、配管を介して送湯ポンプ9に接続しているものであるが、前記のとおり貯湯室28には水源より貯湯室28の水頭圧以上の給水圧で自動的に給水がなされており、貯湯室28は大気に連絡しない密閉構造であるから、温水タンク6に対しては貯湯室28から配管4を介して右水源の給水圧にて連続自動的に給湯がなされるようになっている。

そのため、もしこの温水タンク6に水位調整による自動給水制御手段が付設されていない場合には、送湯ポンプ9の停止時は勿論起動時においてさえも右貯湯室28からの自動給湯による温水が温水タンク6より溢水する事態となるから、その不合理を回避するために温水タンク6には必ずその水位調整による自動給水制御手段が付設されていなければならないものである。この水位調整による自動給水制御手段が、明細書および図面に明示されているフロートバルブである。

したがって、水源が自動給水機能を有し、その給水を受ける貯湯室28が大気に連絡しない密閉構造である本件考案においては、温水タンク6にフロートバルブ7が付設されていなければ成り立たないものであり、請求範囲に記載されている温水タンクは右フロートバルブを内蔵するものに限定され、これを有しないものも包含する趣旨ではない。

このことは、明細書、図面の記載、および前記出願時の技術水準に照らして明らかである。すなわち、

2 本件考案は貯湯室28から温水を温水タンク6を介して送湯ポンプ9に送湯するものであるから、貯湯室28からの温水の供給あるいはその遮断を制御する手段を当然に備えていなければならないものであるが、その具体的手段として示されているのは明細書および図面に示されている、フロートバルブ7を温水タンク6に取り付けたもののみで、他の手段は全く示されていない。

また、フロートバルブ7を取り付けない温水タンクを介して送湯ポンプに送湯する例など全く示されていない。そして、温水タンクに対する温水の供給あるいはその遮断の制御は、温水タンク内の水位調整により給水制御を自動的に行う右フロートバルブ7によらなくては図れないものであり、人為的に液体の供給・遮断を行なうストツプバルブによっては図れないものである。このようにフロートバルブは水位調整により給水制御を自動的に行なうものであるから、水収容タンクに付設されて初めてその機能を発揮するものであり、水収容タンクと一体不可分の構造のものである。

以上から明らかなとおり、明細書と図面に温水の供給・遮断を自動的に制御する手段の唯一の実施例として示されている右「フロートバルブ7を取り付けた温水タンク6」は、実施例には違いないが本件考案の必須不可欠の構成をなすものであり、したがって本件考案の請求の範囲に明記されている「温水タンク」はフロートバルブを内蔵するものでなければならず、それに限定されるものである。それ故この温水タンクは自動給水制御機能を有するものに限定されること当然である。

なお、温水タンクについては、請求の範囲に明記され明細書にも実施例としてその具体的構造が記載されているにもかかわらず、その作用の記載がなされていないのは、前述したとおり、温水タンクを備えること自体は従来の自動車用洗車装置と同一でありその作用も同一であるから、その記載を省略したにすぎないものである。

なおまた、右のとおり本件考案において必須不可欠な貯湯室28からの給湯およびその遮断を制御する手段として、水位調整により給水制御を行なうフロートバルブを取り付けた温水タンク6のみが明示されていることは、貯湯室28に対する水源が自動給水手段であること即ちその給水圧が貯湯室28の水頭圧以上であって、かつ連続給水機能を有するものを前提としていることを示しているに他ならない。

3 本件考案のような自動車用洗車装置においてボイラーから送湯ポンプへの給湯配管構成の一つとして用いられている温水タンクにフロートバルブが内蔵されているものであることは、当業者の技術的常識に属する事項であり、フロートバルブを内蔵しない温水タンク(自動給水制御手段を有しないもの)を用いた自動車用洗車装置など存在しないものである。

すなわち本件考案の従来装置と同様加熱コイル式ボイラーを用いた出願時の技術水準を示す甲第一七号証の一、二、甲第一六号証の温水タンクは、いずれもフロートバルブを内蔵した自動給水制御手段である。そして甲第一七号証の一、二の広告記事である原審決において周知例として援用された甲第六号証には、本件考案の請求の範囲の記載と同様に単に「温水タンク」とのみ記載され、フロートバルブの記載はなされていない(同号証第三五頁)。しかしこの温水タンクは実際にはフロートバルブが内蔵されているものである(甲第一七号証の一、二)。

以上から明らかなとおり、本件考案の温水タンクはフロートバルブを内蔵するものに限定され、したがつて自動給水制御機能を有するものに限定されるものである。

(六) 以上のとおり、本件考案の「水源」、「貯湯室」および「温水タンク」の構成は右に限定されるものであるため、これを備えた請求の範囲記載の構成を採ることによって、前記のボイラーの温水供給能力(単位時間内の温水供給量)の増大とボイラーの単独運転の実現により作業能率の向上を図ること、一般給湯など温水の多目的利用を図ること、および凍結防止のための水抜きの不要という目的を達成しその特有の作用効果を奏し得たものである。

(一) 法令違反

1 明細書の考案の詳細な説明には、その考案の目的、構成および効果が記載されているものであり(実用新案法第五条第三項)、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない(同条第四項)。

すなわち、請求の範囲に記載された考案の要旨は、考案の詳細な説明における考案の目的、構成および効果の記載と対応するものでなければならず、考案の目的(技術的課題)を達成できない事項を含むものであつてはならないものである。

2 しかして以上から明らかなとおり、本件考案の要旨における貯湯室28に接続する水源は給水圧が貯湯室28の水頭圧以上であつて連続給水機能を有するもの(貯湯室28に対する自動給水手段)に限定され、貯湯室28は大気に連絡しない密閉されたものに限定され、したがって貯湯室28からの給湯圧は水源の給水圧が維持され、かつ、温水タンク6はフロートバルブ7を内蔵した自動給水制御機能を有するものに限定されるものである。

そして、水源、貯湯室及び温水タンクが右に限定されない構成によつては、前記本件考案の目的・作用効果である、ボイラーの温水供給能力(単位時間内の温水供給量)の増大とボイラーの単独運転の実現による作業能率の向上、一般給湯など温水の多目的利用、および凍結防止のための水抜き不要の点を達成することができない。したがって、到底本件考案の要旨が満足されないばかりか、自動車用洗車装置としての産業上の利用分野における技術的要求をも達成できない。

さらに、右水源、貯湯室および温水タンクに関する限定事頂は、明細書の考案の目的、構成、作用効果の記載、図面の記載並びに本件考案の技術的課題と密接な関係を有する出願時の技術水準(甲第六号証、甲第一七号証の一、二、甲第一六号証)の参酌により、明細書(請求の範囲も含む)に充分に示唆されている。したがって、右限定事項に基づく原告(上告人)の審決取消事由についての主張は、本件考案の要旨に基づく主張である。

3 しかるに、原判決の判断に係る本件考案の要旨においては、水源は右に限定されない(水源は貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有するものであれば足り、水道のように連続給水機能を有しなければその作用効果を奏し得ないものではない。)、貯湯室は右に限定されない(大気に連絡した開口部を有するもの、したがって貯湯室28からの給湯圧は水源の給水圧ではなく貯湯室28の水頭圧であるものも含む)、温水タンクな右に限定されない(フロートバルブを内蔵しない、したがって自動給水制御機能を有しないものも含む)ものであるから、貯湯室内の水位は常時一定(満水状態)に維持されず、水位は使用とともに低下し、常時所定温度の温水を貯湯室内に大量に貯留し得ないものであり、そのため貯湯室28から配管4を介して温水タンク6へ連続給湯して送湯ポンプ9への温水の供給を満足に行なうことができず、到底右本件考案の目的・作用効果を達成し得ないこと明らかである。

そして、原判決判示に係る右限定事項以外の構成のものについては、本件考案の明細書および図面には全く開示されていないものである。

したがって、原判決は本件考案の技術的思想(考案の目的、構成、効果の記載を総合したもの)に反し本件考案の目的を達成できない事項(ボイラーの構造が開放型、温水タンクがフロートバルブを内蔵していない、水源はその給水圧がボイラーの水頭圧以上であるが連続給水機能を有しない等)を加えて本件考案の要旨を変容解釈したものに帰するから、明らかに実用新案法第五条第三項、同条第四項の規定の解釈適用を誤った違法を有しているものといわなければならない。

(二) 右に関連したその他の違法事由

1 本件考案は、請求の範囲に、ボイラーの「貯湯室に水源を接続する」構成を明記している。このように給湯手段たるボイラーの貯湯室に水源を接続するとの構成を明示した場合、この構成は貯湯室内に外部への給湯に応じて常時自動的に給水がなされること、即ち貯湯室には常時水源の給水圧が加えられていることを意味しているものであり、このことは技術的常識に属する事項である。けだし、給湯に応じて自動給水がなされないボイラーなど存在しないし、間欠的に使用の都度人為的に給水するような場合には、わざわざ貯湯室に水源を接続するなどという構成を明示しないのが通常である。また、本件考案は前記のとおり、貯湯室への自動給水を前提としない限り機能を満足しない温度調節器を介した燃焼制御構成(燃焼装置の電気的自動運転)である「加熱室に貯湯室の温度調節器と連動する燃焼装置を設け」の構成を明記している。

さらに、本件考案は請求の範囲に明記しているとおり自動車用洗車装置に関し、その技術的課題定立の前提装置である温水供給手段として水源に接続した加熱コイル式ボイラーを用いた自動車用洗車装置の改良を図ったものであり、この従来の洗車装置は前記のとおり、洗車の目的と機能を満足するために加熱コイル式ボイラーに対する水源として自動給水手段たる水道を月いていた(甲第六号証、甲第一七号証の一、二、甲第一六号証)。それ故この従来の洗車装置の改良を図ることを技術的課題とする本件考案においても、水源としては右従来装置が用いていたものと同一の自動給水手段の使用を前提としていること当然である。

そして、本件考案は、このように貯湯室に対しその水頭圧以上の給水圧で自動給水することを必要とするが、本来の洗車のみならず多目的給湯の要請を満足するために、貯湯室の水頭圧より高い給水圧の水源を当然に予定しているものであり、貯湯室の構造がその給水圧に対応し得ることを前提とする。

以上より、本件考案の水源は、右貯湯室への給水を満足するために、常時その給水圧にて自動的に給水するもの、即ち給水圧が貯湯室の水頭圧以上であり、かつ連続給水機能を有するものでなければならないこと明らかであり、この水源の技術的意味は右請求の範囲の構成から論理必然的に導き出される、即ち請求の範囲の記載に充分に示唆されているものといわねばならない。

これに対して、引用例1においては、その目的、構成、作用効果の記載から明らかなとおり、水室3に対する自動給水を前提とせず水室3に対し使用の都度間欠的に給水するものであるから、水室3に対する連続的な給水を必要としない。したがって水室3内(分室5も含めて)に給水するためには、原判決が判示するが如く、水室3の水頭圧以上の給水圧を有するものにて外部から満水になるまで、即ち分室5(ボイラーの開放口)の水頭圧を越えない範囲でその開放口から溢水しないように人為的に補給すればよく、それで足りるものである。しかしこのような水室3に対する給水をなす場合においては、構成上水室3が水源に接続しているとは言わないのが通常であり、それ故引用例1には斯かる構成の記載がなされていないものである。

よって以上から明らかなとおり、原判決は、本件考案の水源についての右限定事項が請求の範囲の記載も含めて明細書の記載に充分に示唆されているにもかかわらず、明細書には限定する旨の記載がないとの一事をもって、水源は右に限定されないと判示した点において理由不備の違法を有している。

また、請求の範囲に明記されている「水源に接続せる貯湯室」の構成と「加熱室に貯湯室の温度調節器と連動する燃焼装置を設け」の構成に関し、技術的常識を考慮しない経験則違反の違法を有している。

さらに、本件考案の技術的課題定立の前提となす原告(上告人)援用の自動車用洗車装置に関する出願時の技術水準(甲第六号証、甲第一七号証の一、二、甲第一六号証)を参酌すれば右水源の技術的意味は明白であるにもかかわらず、これを怠った点において、審理不尽の違法を有している。

2 本件考案は送湯ポンプと貯湯室とを直接配管接続して送湯ポンプへの給湯を図るものではなく、貯湯室から送湯管を介して外部に配置されている温水タンクを介して送湯ポンプへ給湯を図るものであることが請求の範囲に明記されている。

送湯ポンプはキャビテーション(ポンプの効率が温水内に含まれる蒸気によって低下する現象)を防止するために高温高圧の加熱蒸気を吸入することを回避しなければならず、密閉構造のボイラーにおいては加熱時発生した右加熱蒸気が必然的に温水中に混入されるものであるから、密閉構造のボイラーから送湯ポンプへ給湯するに当っては、ボイラーと送湯ポンプを直接配管接続せずにボイラー内の温水に含まれている加熱蒸気を排除すると共に水源よりの高い給水圧を解放した上で送湯ポンプへ給湯する必要がある。そのために、従来の自動車用洗車装置においては、加熱コイル内で発生した加熱蒸気を給水圧と共に温水タンクにて除去した上で温水タンク内に所定温度の温水を常時所定量貯留し温水タンクを介して送湯ポンプへの給湯を図っていた(甲第六号証、甲第一七号証の一、二、甲第一六号証)。

しかして本件考案は右のとおり、貯湯室から直接送湯ポンプへ給湯するものではなく、外部に配置した温水タンクを介して給湯する構成をとっている。これは、本件考案のボイラーの貯湯室が大気に連絡しない密閉構造であるからに他ならない。一方、引用例1のように水室3の分室(縦筒)5が大気に連絡しているものにおいては、加熱蒸気はその大気連絡部を介して除去されるので、水室から直接に送湯ポンプへ給湯すればよくわざわざ外部へ配置した温水タンクを介して給湯する必要は全くなく、そのような構成は技術的に不合理である。

したがって、本件考案の貯湯室が大気に連絡しない密閉のものに限定されることは右請求の範囲におけるボイラーの送湯ポンプに対する給湯配管構成の記載に充分に示唆されてるものである。

よって、明細書に密閉の限定の記載がないとの一事をもって貯湯室は右に限定されないと判示する原判決には、理由不備の違法を有すると共に送湯ポンプへの給湯構成に関し経験則違反の違法がある。

3 本件考案は貯湯室28から温水タンク6を介して送湯ポンプ9へ給湯するものであるから、その給湯と遮断を制御する手段を当然に備えていなければならないものであるが、明細書にはその具体的制御手段としてフロートバルブ7を有する温水タンク6のみが示されておりその他の手段は開示ないし示唆されておらず、ましてフロートバルブを有しない温水タンクを介して送湯ポンプへ給湯する例など全く示されていない。

右の事実は、本件考案は、右フロートバルブ7を有する温水タンク6を介してのみ貯湯室28からの給湯と遮断の制御を行なうことを示している、即ち本件考案の請求の範囲に記載されている温水タンクにはフロートバルブが内蔵されているものであるに他ならないということである。けだし右温水タンクにフロートバルブが内蔵されていない場合には、貯湯室28からの給湯と遮断を行なうことができず実用に供し得ない洗車装置となってしまうからである。そして、前記のとおり、自動車用洗車装置において温水タンクとは、フロートバルブを内蔵した自動給水制御手段を指称するものであること当業者間の常識であり、フロートバルブを内蔵しない温水タンクを介して送湯ポンプに給湯する洗車装置は存在しないものである。

したがって右の点のみに鑑みても、本件考案の温水タンクはフロートバルブを内蔵したものに限定されることについて明細書の記載に充分に示唆されているといわなければならない。

よって、明細書とりわけ請求の範囲にフロートバルブ内蔵の限定記載がないとの一事をもって温水タンクは右に限定されないと判示した原判決は理由不備の違法を有している。

判決の右理由不備を伴う判断は、フロートバルブおとび温水タンクについての両当事者の主張と出願時の技術水準に対する審理不尽と経験則違反に原因するものである。

原審で被告(被上告人)は、「本件考案の出願当時、温水タンクにはフロートバルブを内蔵するものとしないものと両方が知られていた」(昭和六三年一一月一〇日付被告準備書面(一)第五頁第一〇行~第一一行)と主張したが、その証拠の提出は全くなかった。しかしながら、水源(水道)から加熱コイル内に自動給水して温水となし、加熱コイルから水源の給水圧にて温水タンクへ給湯し、温水タンクを介して送湯ポンプへ給湯する配管構成をとっている本件考案の出願当時の自動車用洗車装置において、フロートバルブを内蔵しない温水タンクを介して送湯ポンプに給湯するもの(加熱コイルからの給湯と遮断の制御を行なわないもの)など全く存在しない(甲第六号証、甲第一七号証の一、二、甲第一六号証)。

一方原判決は、「フロートバルブは、液体の供給あるいはその遮断を制御する手段として本件出願前から慣用されているものである」(第二二丁表第七行~第九行)と判示しているが、これはフロートバルブの右制御機能が如何なる構造によって発揮されるかの点を看過している。フロートバルブは、人の手等外部要因によって単に液体の供給と遮断を行なうストップバルブ(自動制御をしない)と異なり、明細書記載のフロートバルブ7のように水収容タンク内の水位調整をなすことによってその制御を自動的に行なうものとして慣用されているものである。即ちフロートバルブは水収容タンク(温水タンク)と密接不可分の関係にある。

したがって原判決の右本件考案の温水タンクについての判示は、本件考案の明細書の記載と右出願時の技術水準の参酌と慣用手段としてのフロートバルブの構造を斟酌すれば本件考案の温水タンクの存在理由は明らかであるにもかかわらず、何らの証拠に基づかない被告(被上告人)の右主張に準拠する判断をなしたことに帰し、この点で審理不尽および経験則違反(フロートバルブの構造)の違法を有している。

4 本件考案は、拒絶査定に対する審判(昭和四九年審判第一〇七九五号)を経て登録されたものであるが、審査時において本件引用例1は引用されず拒絶の引用例(先行技術)として実公昭三六-一二〇四五号(甲第二六号証の三)のスチームクリーナーにおける燃料油燃焼装置の技術が援用された。そして、この甲第二六号証の三の技術は、甲第一六号証の拒絶理由にも引用されている。

右引用例は、甲第一六号証の前身をなす自動車等を清掃するスチームクリーナー(強制貫流単管式気缶)に関し水道栓ジョイント25と給水管26を介して水道に接続する水位調整水槽23(フロートバルブ内蔵、但し図示のみで明示の記載なし)内に常時一定水位に給水を貯留し、この水位調整水槽23に貯留された水を給水ポンプ27によってボイラー29の加熱コイル30に圧送し、この加熱コイル30内にて発生した蒸気を洗滌用噴射ノズル35から噴射して洗滌を行なうものである。

この本件考案と甲第一六号証の拒絶引用例として右同一引用例が引用されていることと右引用例の技術内容に鑑みれば、特許庁の審査において両者は同一技術分野に属するものと認定しているとともに、本件考案の水源が水道のように自動給水機能を有するものであり、かつ温水タンクはフロートバルブ内蔵の自動給水制御機能を有するものと認識していること明らかである。

しかるに単に明細書に記載がないとの一事のみで何ら特定の理由もなく水源と温水タンクについて右に限定されないと判示した原判決は、右特許庁における本件考案の要旨の判断に反し、経験則違反というべきである。

5 考案の要旨の技術的意味の解釈確定に当っては、明細書に記載されていない事項を要旨に含むことは許されないのは当然であるが、実用新案登録請求の範囲には考案の技術的課題(目的)を達成するために必須不可欠の構成が記載されているものであるから、明細書に記載されているか否かの判断は、単に明細書に明示の記載があるか否かで形式的に決すべきではなく、明細書の技術的課題(目的)、構成、作月効果の記載更には出願時の技術水準を参酌して考案の技術的思想に則り実質的・合理的に決すべきである。又、既存の技術の改良に係る考案においては、その改良点即ち顕著な構成上の相違点とそれに基づく作用効果上の相違点に焦点を絞って記載し、必須の構成要件ではあるが従来技術と共通する事項(とりわけ周知事項)については請求の範囲には記載するが考案の詳細な説明においては特に作用効果の記載を省略する場合が多々あることも看過してはならないものである。

この考案の要旨の技術的意味の解釈・確定に当たっては、判例は次のとおり判示する。

「実用新案の説明書により当該実用新案の権利範囲を確定するにあたっては、説明書中の「登録請求の範囲」の項記載の文字のみに拘泥することなく、考案の性質、目的または説明書のその他の項の記載事項および添付図面の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである。」(最高裁昭和三九年八月四日判決、昭和三七年(オ)第八七一号)(甲第二八号証)

「明細書の特許請求の範囲の文言の意味・内容を解釈、確定するに当たっては、その文言の文字としての一般的意味内容のみにとらわれず、明細書中の他の記載部分、特に「発明の詳細な説明」欄の記載における当該発明の目的、技術的課題、その課題解決のための技術的思想又は解決手段及び効果並びに図面をも参酌して、客観的合理的に解釈、確定するを相当とする。」(東京高裁昭和四九年五月二九日判決、昭和四一年(行ケ)第四六号)(甲第二四号証)

しかるに、本件考案の要旨中の水源、貯湯室、および温水タンクの構造の技術的意味に対する原判決の判断は、本件考案の目的、構成、作用効果の記載並びに本件考案の技術的課題と密接不可分な出願時の技術水準に鑑み本件考案の技術的思想に則って実質的合理的に解釈・確定したものではなく、逆に請求の範囲の記載の文言のみにとらわれて明細書に全く記載されておらず本件考案の目的を達成できない事項を加えて恣意的に解釈したものであり、右判例に違反するものというべきである。

原判決が明細書記載の本件考案の技術的課題と作用効果について看過ないし誤認している例を挙げると次のとおりである。

a 従来装置における加熱コイルと水源との接続構成を示している「水圧の低いところでは送湯ポンプの空回転につながり使用困難であり、」(第一欄第三二行~第三三行)の記載を看過している。

この「水圧が低いところ」とは、場所によって水圧に高低差がある、即ち自動給水源である水道を意味している。したがって右従来装置は加熱コイルが水源(水道)と接続し、自動給水を受けていることを示すものであるが、原判決はこの点を看過している。又、加熱コイルはその構造上水道のように自動給水機能を有する水源に接続しないとボイラーの運転ができないこと、および加熱コイルから直接送湯ポンプへ給湯することができず温水タンクを介する必要があることは技術的常識であるが、原判決はこの点も看過している。

b 右に関連して従来装置の欠点として、原判決は「加熱コイルは…内部抵抗が大きいので温水供給量が限定され」(第一六丁表第四行~第七行)としているが、明細書にな「加熱コイルは…管内抵抗が大となるので単位時間内における温水供給量が限定され」(第一欄第二八行~第三一行)と記載されており、原判決は右明細書における「単位時間内における」の点を意図的に省いている(看過)。この「単位時間内における」の点の省略は本件考案のこれに対応する作用効果の項でも同様である。

右「単位時間内における温水供給量」とは、水源すり自動給水される加熱コイルが水源の給水圧にて温水タンクを介して連続的に送湯ポンプへ給湯する場合の単位流量という意味であるが、原判決ではこの連続給湯の技術的意味を除外して単なる加熱コイルの内蔵水量の問題に置き換えている。これは本件考案の技術的思想の歪曲であると共に、加熱コイル式ボイラーの構造についての経駘験則違反である。

第三 実用新案法第三条第二項違反

一 本件考案の要旨における水源、貯湯室および温水タンクの構造は右に限定されるものであるから、原審決認定の相違点(1)、(2)、(3)の判断においては、本件考案と引用例1および審決援用のその他の引用例、周知例との間には次の構成上および作用効果上の相違を有している点を看過してはならない。

1 相違点(1)について

本件考案と引用例1とは、単に貯湯室28あるいは水室3内一杯に給水するためだけの給水圧と給水量の点では共通し、いずれも貯湯室28あるいは水室3の水頭圧以上の給水圧が必要である。しかし本件考案の水源は貯湯室28に対し常時その給水圧が加えられている(貯湯室28の水頭圧以上の給水圧を有し、かつ連続給水機能を有する)もの、即ち自動給水源であるのに対し、引用例1では水室3に常時水源の給水圧が加えられていない点で両者は貯湯室28あるいは水室3に対する水源の接続構成を根本的に異にしている。そして、引用例1の水室3に対する右給水は容器内に水を収容する場合の一般的当り前の条件であって、斯かる給水をとらえてボイラーに対する水源の接続構成とは言わないのが技術的常識である。

また、本件考案の貯湯室28は大気に連絡しない密閉構造であるのに対し、引用例1の水室3は分室(縦筒)5を介して大気に開放されている点で両者は貯湯室28あるいは水室3の構造を異にしている。

さらに、本件考案の温水タンク6はフロートバルブ7を内蔵し、したがって貯湯室28からの給湯・遮断を自動的に制御するものであるのに対し、審決援用の周知例(実公昭一三-一二六九号)(甲第五号証)の温湯貯蔵槽6は右フロートバルブ7に相当するものを有しておらず貯湯室からの給湯・遮断を自動的に制御し得ない点で両者は温水タンクの構造を異にしている。

しかして本件考案は右構成に基づき、貯湯室28内に常時満水状態に給水して水位を一定に維持することができ、貯湯室28から水源の給水圧にて配管4を介して温水タンク6へ連続的に給湯して温水タンク6内に大量に温水を一定水位に貯留し、温水タンク6にて給水圧と共に温水中に混入されている加熱蒸気を除去して送湯ポンプ9に給湯するとともに、送湯ポンプ9の作動に伴いフロートバルブ7を介して温水タンク6内の水位調整によって貯湯室28からの給湯と遮断を自動的に制御するものであるから、従来の加熱コイル式ボイラーを用いた洗車装置の難点である自動給水源を用いその給水圧にて給湯するものであってもボイラーの単位時間内における温水供給量が限定されるため作業能率が擾れないという点を解消し、その増大を図って作業能率を向上させることができたものである。また右構成をとっているものであるから、請求の範囲記載の他の構成と相まって、ボイラーの単独運転の実現により即時給湯が可能で作業能率の向上を図ることと、一般給湯など温水の多目的利用を図ることと、凍結防止のためのボイラー内の水抜き不要という特有の作用効果を奏し得たものである。

しかるに、引用例1と甲第五号証の周知例には水源、貯湯室および温水タンクの構造について右限定された構成が開示されていないものであるから、これらによっては貯湯室内に常時満水状態に水位を維持することができず、給湯に伴い水位は低下し、貯湯室からの給湯圧は水位低下に伴う貯湯室の水頭圧以下となり、貯湯室からの給湯と遮断の自動的制御もなし得ないものであるから、貯湯室から温水タンクを介した送湯ポンプへの給湯を満足になし得ないと共に、右本件考案の特有の作用効果は到底奏し得ないものである。

したがって、原審決の相違点(1)の判断な明らかに誤りである。そして本件考案の水源、貯湯室および温水タンクの構造が右に限定されるものであり、それが明細書の記載に充分に示唆されていることについては第二項で述べたとおりである。

2 相違点(2)について

本件考案と引用例1とは、右のとおり本件考案は貯湯室28に水源から自動給水されるのに対し引用例1では水室3に自動給水がされない点、および本件考案の貯湯室28が大気に連絡していない密閉構造であるのに対し引用例1の水室3は分室5を介して大気に開放されている点で構成を異にしている。

したがって、本件考案においては貯湯室が密閉であるから水源の給水圧を解放することなく保持することができ、そのため水源として高い給水圧(一般的には一キログラム/平方センチメートル以上、即ち水位一〇メートル以上)を有し使用上便利な水道を用いることが可能であり、その結果図面に示されているように貯湯室28の高所あるいは遠方にまで温水の供給をすることができ、洗車装置で得られた温水を洗車以外にも一般給湯等温水の多目的利用を有効に図ることができる。

しかるに、仮に引用例1と引用例2とを結合させたとしても(両者は本来結合の必然性がない)引用例1の水室3には自動給水がされないし、自動給水したとしても大気開口部より溢水して水源の給水圧は解放され、水室3からの給湯圧は水室3内の水頭圧となって水室3の高所あるいは遠方への給湯はできないから、右本件考案の温水の多目的利用を図ることができない。

したがって原審決の相違点(2)の判断は明らかに誤りである。

3 相違点(3)について

本件考案の「加熱室27に、貯湯室28の温度調節器30と連動する燃焼装置を設け」の構成は、温度調節器30を介して燃焼装置を電気的に自動制御(自動運転)することによって貯湯室28内の温水の水温を常に一定に維持するためのものであるが、貯湯室には水源から常時自動給水がなされて水位が満水に維持されているとともに、ボイラーの燃焼装置が単独自動運転するものであるから、これらの構成と相まって貯湯室28内に常時所定温度の温水を大容量(満水)に貯湯するために用いられているものである。

したがって、本件考案においては、「使用の都度直ちに温水洗車を行なうことができ従来の洗車装置に比して洗車作業を遙かに能率的に行なうことができる。」(第四欄第一三行~第一五行)、「従来の洗車装置のように加熱コイル内の水の凍結によるボイラーの破損を防止するために一々ボイラー内の水抜きをする等の煩雑な作業を行なう必要が全くない。」(第四欄第二五行~第二八行)及び「常時温水を供給することができることと相まって送湯管より手洗用の配管を分岐接続することによって、洗車のみならず手洗用の温水を使用することができる等装置を多目的に使用することができる。」(第四欄第三五行~第三九行)という特有の作用効果を奏し得たものである。

すなわち、引用例1のごとく、使用の都度ボイラーに給水し、温水になるまで待ってから洗浄作業を行ない、給水槽の水がなくなったらまた同じ作業を繰返すこととは、全く異なることを意味しているものである。そして、さらに本件考案の右記載の「使用の都度直ちに」とは、作用効果の一つであるボイラーのみの常時単独運転による温水の一定温度の貯留効果と相まってボイラー関係の操作を一切することなく、洗車作業であれば、何時でも何度でも送湯ポンプを作動させるだけであり、また給湯の多目的利用であれば、何時でも何度でも手元のカランを開けるだけで可能なことを意味するものである。

しかるに仮に引用例1と審決援用の周知例(実公昭三六-九六七七号)(甲第七号証)とを結合させたとしても(両者は本来結合の必然性及び技術的合理性がない)、引用例1の水室3には水源から常時自動的に給水がなされないのであるから、水室3内に常時一定水位に温水を貯留することができず、したがって水室3内の温水の水温を常時一定に維持することはできないものであり、そのためこのものは右本件考案の特有の作用効果を奏することができないものである。

したがって、原審決の相違点(3)の判断は明らかに誤りである。

二 原判決は、右相違点(1)、(2)、(3)の判断は誤りであるとする原告(上告人)の主張は本件考案の要旨に基づかない恣意的な主張であるから、採用できない旨判示する(第二一丁表第七行~第九行、第二三丁表第三行~第七行)。

しかしながら、原告の右本件考案の要旨の限定解釈についての主張は、明細書の記載に示唆されている事項に基づく即ち本件考案の要旨に基づく主張であり、逆にその要旨に関する原判決の判示は明細書に記載も示唆もされていない事項を加えて要旨の解釈をなした、即ちこれこそ本件考案の要旨に基づかない恣意的な判断であって許されないものであること、前記のとおりである。

したがって右相違点(1)、(2)、(3)審決の判断を支持する原判決の判示は、本件考案の要旨に対する誤った判断を前提とするものであるから、実用新案法第三条第二項(進歩性の判断)の規定の解釈、適用を誤った違法を有していること明白である。

三1 一致点の認定の誤りについて

原判決は、「引用例1記載のものは、加温水が十分な加温状態に達するまでは喞筒17を起動させないで燃焼器22のみを作動させること、すなわち燃焼器22と喞筒17とを個別的に作動し得る構造のものであると認めることができるから、本件考案と引用例1記載のものは燃焼装置と送湯ポンプとを個別的に作動し得るようにそれぞれを作動させる操作スイッチを分離して設けた洗滌装置である点において一致するとなした審決の一致点の認定に誤りはない。」と判示する(第一九丁裏第一一行~第二〇丁裏第八行)。

しかしながら、本件考案の燃焼装置は前記のとおり温度調節器30による電気的自動制御によって電気的に自動運転されるものであり、貯湯室28には水源から自動給水されて常時水位が満水状態に維持されでいると共に、温度調節器30の燃焼制御によってその貯留温水は常に一定の水温に維持されるものであるから、本件考案なこれらの構成と相まって右ボイラー単独運転の構成をとることによって、従来の加熱コイル式ボイラーを用いた洗車装置では不可能であった温水の即時常時給湯「使用の都度直ちに温水洗車を行なうことができ洗車作業を能率的に行ない得る」(第四欄第一三行~第一五行)、凍結防止のための水抜き不要(第四欄第二五行~第二八行)及び温水の即時給湯に伴う温水の多目的利用(第四欄第三五行~第三九行)という特有の作用効果を奏し得たものである。

しかるに引用例1の燃焼器22は喞筒17とは別に動くといっても、その構造上明らかなとおり電気的に自動運転し得るものではなくその起動には人手を必要とすると共に、水室3内には水源から自動的に給水されるものではないから温度調節器を介在させたとしても(実際には、燃焼器が電気的作動でななく、水室3内の水位が一定に維持されないから温度調節器の介在は技術的に不可能)水室3内に常時一定水温の温水を貯湯しておくことはできず、そのため引用例1によっては右本件考案の特有の作用効果を奏し得るものではない。すなわち、水室3内にな使用の都度間欠的に給水してその都度間欠的に加熱をするものであるから、加温水が十分な加温状態に達するまでは送湯ポンプを起動させることはできず、本件考案のような温水の即時給湯はできないものであり、本件考案がその欠点の解消を目的としている従来の加熱コイル式ボイラーを用いた自動車用洗車装置と全く変わりがないものである。

したがって、本件考案と引用例1とは、燃焼装置と送湯ポンプとを個別的に作動し得るようにそれぞれを作動させる操作スイッチを分離して設けた洗滌装置である点において一致するとなした原審決の一致点の認定は誤りである(両者は、ボイラー単独運転の構成に開し技術的思想を全く異にする)こと明らかである。なお、右一致点の認定に関し、原判決は「そのような構造とするために、それぞれを作動させる操作スイッチをどのように設けるかは、単なる設計事項にすぎない」と判示するが、これは以上からも明らかであるように本件考案のボイラー単独運転の実現のための構成の意義を看過していることに起因するもので誤りである。自動車用洗車装置においてボイラーの単独運転を実現し得るか否かは、右操作スイッチの設定方法の問題によるものではなく、右のようにその操作スイッチの分離構成以外に、貯湯室内が自動給水により常時満水状態に維持されること、温度調節器を介したボイラーの自動運転により燃焼制御がなされることを必要とするとともに、更にボイラーが単独運転時に予想される蒸気爆発の危険性を回避し得る構造となっていることを必要とする。

すなわち、自動車用洗車装置は大量の温水(温水吐出量、約七〇〇リットル/時)を短時間に高温度(約八〇度C)に加熱してその温度を維持して連続噴射する必要上、ボイラーの熱出力には高いものが要求され、そのため内蔵水量が少なく伝熱面積の大きい加熱コイルを用いている従来の洗車装置においては、異常加熱による蒸気爆発の危険を防止するため加熱コイル内への通水を前提としてボイラーが運転され、ボイラーの単独運転を図り得ないような電気配線(操作スイッチが電源に対して独立していない)となっていた(甲第六号証、甲第一七号証の一、二、甲第一六号証)。本件考案の貯湯室28も前記のとおり密閉構造であるから、ボイラー単独運転をなした場合には、異常加熱による蒸気爆発の危険性がある。本件考案は斯かる点に鑑み、貯湯室内への常時自動給水と、温度調節器を介した燃焼装置の自動運転と、大容量の温水を貯湯し得る貯湯室の構造と相まって、操作スイッチの分難機構(電源に対する独立配線)をとることによって、右蒸気爆発の危険性を回避してボイラー単独運転の課題の解決を図り得たものである。

これに対して引用例1は、水室3が分室5を介して大気に連絡し密閉構造に伴う右蒸気爆発の危険がないとともに、本来的に喞筒17と燃焼器22が連動の必要性がなく別々の機械であるから夫々別々に動くことを示しているにすぎず、右本件考案のボイラー単独運転の課題解決手段を開示しているものではない、つまり、本件考案と引用例1とはボイラー単独運転の構成に関し技術的思想を根本的に異にしているものである。

したがって本件考案において、右課題を解決するために貯湯室の容積が右蒸気爆発の危険を回避するに充分なものに合理的に設定されていることは当然のことである。

したがってこの貯湯室の合理的な容積設定は本件考案の要旨外の設計事項であるとする原判決の判示(第二二丁裏第四行~第七行)は、誤りである。

以上のとおり、右一致点の認定に対する原審決の判断は誤りであるからこの原審決の認定を指示する右原判決の判示も誤りであり、これを前提として本件考案の進歩性を判断した原判決は、実用新案法第三条第二項の解釈・適用を誤った違法を有しているというべきである。

2 結合の必然性ないしは適用上の適性について

(1) 上告人(原告)は、原審において相違点(2)の判断に関連して、「引用例1は本件考案の洗車装置における温水の多目的利用の課題を有しておらず、引用例2においても本件考案および引用例1と技術分野を異にし右本件考案の課題を有していない。そして引用例2の大小二カランを設けたものは本件考案のように同一貯湯室より分岐するものではなく異なる給湯源に接続するものであるから、これを引用例1の水室3に結合させる技術的合理性がない。したがって引用例2の給湯配管構成を引用例1に結合させる必然性ないし適用上の適性がないものであるから、原審決の相違点(2)の判断は誤りである。」旨の主張をなした(平成元年三月七日付原告第九回準備書面第一九頁第八行~第二〇頁第一行)。

しかるに原判決は、「その余の点を検討するまでもなく、採用することができない。」(第二三丁表第六行~第七行)と判示し、右の点について判断を示していない。

しかしながら、二以上の引用例の結合がきわめて容易であると判断し得るためには技術分野の共通性は勿論のこと課題の共通性、結合の技術的合理性および技術的思想の近接性がなければならないのは当然であるから、進歩性有無の判断において右結合の必然性ないし適用上の適性の点は看過してはならない事項である。そして、右事項は本件考案の要旨が限定されることを前提とするか否かとは無関係の問題である。つまりそれとは別に論じなければならないものである。

したがって、右結合の必然性ないし適用上の適性の点の判断を欠いた原判決は、判断遺脱の違法を有すると共に、実用新案法第三条第二項の解釈・適用を誤った違法を有する。

(2) また上告人(原告)は、原審において相違点(3)の判断に関連して「引用例1は水室3内に自動給水をするものではなく、水室3内の水位は使用に伴い低下して一定に維持されるものではないと共に、燃焼器22は電気的に運転されるものではないから、温度調節器により電気的に燃焼器22を自動制御して温度調節を図る必要性がないし、技術的にそのような制御構成をとり得ないものである。したがって引用例1に実公昭三六-九六七七号の周知技術(甲第七号証)を結合させる必然性ないしは適用上の適性がないものであるから、原審決の相違点(3)の判断は誤りである。」旨の主張をなした(同原告第九回準備書面第三四頁第三行~第一〇行)。

しかるに原判決は、右の点に対する判断を欠いており、したがって前項(1)と同様に、判断遺脱の違法性および実用新案法第三条第二項の解釈・適用を誤った違法を有している。また、右原判決は、進歩性の判断においては結合する引用例等に適用上の適性があることを前提要件としなければならない、とする判例(東京高裁昭和六一年一〇月二三日判決、昭和五八年(行ケ)第一九号)(甲第一〇号証)に違反するものである。

第四 更に原判決は、実用新案法第一条、憲法第二九条および第三二条に違反するものである。

以上のとおり、本件考案の要旨の水源、貯湯室および温水タンクの構造が右に限定されるものであることは明細書および図面の記載に充分に示唆されており、右構成を含む請求の範囲記載の構成を採ることによって右特有の作用効果を奏し得たものである。したがって、本件考案は引用例1、2および原審決援用の周知例記載のものに基づいてきわめて容易に考案をすることができたものではなく、充分に進歩性を有している。

しかるに、右限定される旨の記載がない(限定するとの明示の記載がない)との一事をもって上告人の主張は採用し得ないとする原判決は、余りに短絡的で理由不備であり、明細書に記載も示唆もされていない事項を本件考案の要旨であるとするもので、本件考案の技術的思想に反し自動車用洗車装置についての経験則に反するものである。

すなわち、本件考案の自動車用洗車装置において、その請求の範囲に明示されている構成要件を、原判決のいうがごとく開放型ボイラーと、フロートバルブを内蔵しない温水タンクとして、本件考案の請求の範囲に明記されている各構成要件順に構成し、原判決が判示しているがごとき給水圧が貯湯室の水頭圧以上であるが連続給水機能を持たない(ボイラーの給水源として現実的には存在しない)水源に接続して、実際に長時間に亙り、自動車の洗車作業を行うことが可能か否かを判断すれば、この原判決は、いかに現実性の全くない全くの経験則の違反による判断に基づいてなされたかが自明となる。

右内容のような経験則に違背する違反および不見識に基づく判断にて、新規性および進歩性を有し産業の発達に寄与し、特許庁の登録審決に基づき登録料を納付して有効に確定している実用新案権を遡及的に消滅させて剥奪する原判決は、考案の保護および利用を図りもって産業の発達に寄与することを目的とする実用新案法第一条、財産権の不可侵を規定する憲法第二九条、および公正な裁判を受ける権利を規定している憲法第三二条に違反するものというべきである。

なお、本件考案に係る洗車装置は、本件考案の請求の範囲に記載されているとおりの構成要件および構成順に沿って、実際に組立てられ生産販売され、当業界において多数多年使用されて、産業の発展に大きく貢献しているものであることを申し添えるものである。

第五 以上のとおり、本件考案は引用例1及び引用例2記載の技術的事項及び本件出願前に周知の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする原審決の認定及び判断は正当であるとして原審決を支持する原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背(実用新案法第五条第三項、同条第四項、同法第三条第二項)があり、またその判断過程において理由不備ないし審理不尽および経験則違背の違法並びに判例違反の違法を有し、更に実用新案法第一条及び憲法第二九条、同法第三二条違反の違法を有するものであるから、破棄を免れないものである。

証拠方法

一 甲第二七号証(昭和四四年三月二〇日日刊工業新聞社発行、図解工業用語辞典、第三一二頁~第三一三頁、ボイラの項)

これによって、ボイラーの水収容部は一般的に密閉容器(大気開口部の明示の記載がない限り)であると記載されており、およびその容器内には常時一定の水位が維持されているものであること、更に加熱により蒸気が発生するものであること、したがって、本件考案のボイラーの貯湯室28は大気に連絡していない密閉構造のものであること、かつ、貯湯室28内には水源から自動給水されているものであることを立証する。

二 甲第二八号証(最高裁昭和三九年八月四日判決、昭和三七年(オ)第八七一号)

これによって、考案の要旨の技術的意味の解釈・確定に当たっては、実用新案登録請求の範囲の記載の文字のみにとらわれることなく、明細書および図面の記載全体を勘案し考案の技術的思想に即して実質的、合理的に判断すべきものであること、しかるに原判決は本件考案の要旨の解釈・確定に当たり、実用新案登録請求の範囲の記載の文字の表面解釈のみにとどまり、本件考案の技術的思想に即して実質的、合理的な解釈をなしておらず、右最高裁の判例に違反するものであることを立証する。

以上

平成元年一一月一八日付の上告理由

一 本件考案の要旨における貯湯室28に接続する水源は給水圧が貯湯室28の水頭圧以上であって連続給水機能を有するもの(貯湯室28に対する自動給水手段)に限定され、貯湯室28は大気に連絡しない密閉されたものに限定され、したがって貯湯室28からの給湯圧は水源の給水圧が維持され、かつ温水タンク6はフロートバルブ7を内蔵した自動給水制御機能を有するものに限定されるものであり、このことは明細書および図面全体の記載、自動車用洗車装置に関する本件出願当時の技術的常識事項を含んだ技術水準に照らして明白であることについては、平成元年一一月一〇日付上告理由書で主張したとおりである。

なお、右「限定される」との点は、技術的に限定される、即ち、必然的にその技術的意味となりそれ以外の技術的意味は含まれないということである。

右本件考案の要旨の技術的意味の解釈について、今回更に追加的に主張する。

1 本件考案の要旨における水源、貯湯室及び温水タンクの各技術的意味が必然的に右技術的意味となり、それ以外の技術的意味を持つものである場合には本件考案は成り立たないものであることは、本件考案の考案者である中西一郎の添付宣誓供述書(特に第七、九項)による宣誓の事実からもきわめて明白である。

また、右の技術的意味については、上告人の技術担当者である石川一雄の添付技術説明書に照らしても明らかである。この技術説明書添付の写真は、上告人の本件考案に係る実施製品の一つである温水洗車装置(ナイスホット八五B)についてのもので、これは本件両当事者間に係属中である神戸地方裁判所昭和五八年(ワ)第七二五号実用新案権侵害訴訟事件において、上告人が昭和六〇年一一月二〇日になした技術説明の資料から抜粋したものである。

さらに、右の技術的意味については、後述の原審において提出した甲各号証と添付の前記上告人の実施製品についてのカタログ、取扱説明書に基づく自動車用洗車装置の技術的変遷に関する説明に照らしても明らかである。

2 本件考案の要旨の右技術的意味は明細書および図面全体の記載に十分示唆されていることについては、既に主張したところであるが、明細書の記載中端的に示している個所を例示的に指摘する。

(1) 「常に貯湯室28内の水温が一定温度に維持されている」(甲第二号証第三欄第三四行~第三五行)。

この作用効果を奏するためには、温度調節器を介したボイラーの単独自動運転の構成を必要とするこというまでもないが、更に貯湯室内の水位が常に一定水位(満水状態)に維持されていることが当然の前提となること自明である。すなわち、貯湯室に対する水源がこの給水を満足する自動給水源であることを端的に示している。

(2) 「単位時間内における温水供給量を増大することができ、」(第四欄第五行~第六行)。

これは貯湯室から温水タンクへの温水供給量における単位流量を指摘しているものであるから、貯湯室から温水タンクへの給湯は一定時間継続した連続給湯であること、したがって水源から貯湯室へ自動給水がなされていることを端的に示している。

(3) 「使用の都度直ちに温水洗車を行なうことができ」(第四欄第一三行~第一四行)。

これはいつでもポンプスイツチをオンにすれば温水を吐出することができるというものであるから、この作用効果を奏するためには、貯湯室内に常時所定温度の温水が一定水位に貯湯されていることを前提とする、即ち貯湯室内に水源から自動給水がなされ、温度調節器を介してボイラーが単独自動運転されていることを端的に示している。

(4) 「常時温水を供給することができる」(第四欄第三五行)。

これは貯湯室内に常時温水が所定温度所定水位に貯湯されていることに伴う作用効果であるから、前項と同様貯湯室内に水源から自動給水がなされ、温度調節器を介してボイラーが単独自動運転されていることを端的に示している。

(1) 前記技術説明書添付写真の温水洗車機(ナイスホツト八五B)は、上告人が製造し、訴外株式会社バンザイ販売に係る本件考案の実施製品の一つである。これは、右ナイスホツト八五Bの別紙添付カタログおよび取扱説明書と本件考案の公告公報(甲第二号証)とを比較すれば明らかである。

すなわち、右カタログの表紙には「PAT・一四〇三三八」と本件考案の出願番号(実願昭四五-一四〇三三八号)を意味する記号が表示されており、右取扱説明書の配管系統図(第一六頁)は、本件考案の図面および実用新案登録請求の範囲の記載と技術的構成が一致している(但し、右配管系統図は、具体的製品の取扱説明書に記載しているものであるから、具体的製品として必要なその他の設計的事項も表示されている)。

右配管系統図から明らかなように、貯湯室には自動給水源である水道から減圧逆止弁を介して自動的に給水がなされる点、温水タンクには水位調整により自動給水制御を図るフロートバルブが内蔵されている点、および図面上貯湯室が大気に連絡していない密閉構造である点が明示されている。

この配管系統図と請求の範囲の記載を形式的に比較すると、請求の範囲には単に水源、温水タンクと記載されて夫々自動給水源であること、フロートバルブを内蔵していることの明示の記載がないものであるが、これは右水源と温水タンクがそれ自体で右技術的意味を有しているものであることが自明であるから明示の記載をしていないという趣旨であって、右技術的意味を有しないものも包含するとの趣旨ではない。

けだし、水源が自動給水をするものとしないもの、及び温水タンクが自動給水制御を図るフロートバルブを内蔵するものとしないもの、更に貯湯室が水源の給水圧を維持し得る密閉構造のものと水源の給水圧を維持し得ない大気開放構造のものとでは、作用効果が全く異なる(正反対)ものであるから、このような両極端の構成をいずれも実施例として包含する考案などあり得ないものであるし、右配管系統図において、水源、貯湯室、温水タンクから夫々右技術的意味を除外した場合、果たして温水タンクの存在理由があるのか否か(必然性の有無)、装置が機能するのか否か(送湯ポンプに対する給湯が行ない得るのか否か)の点を考察すれば自ずから明らかである。

すなわち右配管系統図において、水源が自動給水しないもの(単に使用時に貯湯室内に給水し満水とするだけで、給湯による温水の減少分を補充しないもの)で貯湯室が大気開放構造である場合には、加熱による蒸気は開放口より除去されるから、なにも貯湯室の温水を外部に配置した温水タンクを介して送湯ポンプに給湯する必要はなく、貯湯室から直接配管接続して送湯ポンプへ給湯すれば済むものである。又、貯湯室と温水タンクを接続する配管は固定記置であるから、貯湯室に自動給水しないのであれば、給湯により貯湯室の水位がその配管の位置より低下した場合には最早温水タンクへ給湯できないこととなる。なお、右配管を貯湯室の下側部に配置した場合(加温された温水は対流により上昇するため給湯目的の配管を下方に配置することは通常あり得ない)には右不都合はないように見えるが、この場合にはボイラー内で加熱される以前に温水タンクへ水が流れてしまうとともに、温水タンクにフロートバルブがないのであればその流出を止めることができず温水タンクより溢水して温水の貯留をすることができない。

したがって、本件考案がこのように実用に供し得ない結果となる右のような構成要素を要旨中に包含するなどということはあり得ないものであり、水源から貯湯室に給水して温水となし、この温水を貯湯室から外部に配置した温水タンクを介して送湯ポンプに給湯する配管構成をとっている以上、その送湯ポンプに対する給湯を満足するために本件考案の要旨中の水源、貯湯室及び温水タンクの技術的意味は必然的に右技術的意味を有しているものである。

(2) 又本件考案は自動車用洗車装置に属し、その目的と機能を満足する上からも水源、貯湯室、温水タンクが右技術的意味を有しているものであること当然である。

自動車用洗車装置は、大型トラツク、バスやブルトーザなどの自動車の下回り箇所等に付着した油汚れやぶ厚い泥の洗滌除去を目的とする(添付カタログ)。このことは、当業者において周知である(甲第一一号証第四頁、甲第一三号証第一三頁)。

そして本件考案のような温水洗車機においては、洗滌銃18より洗滌液を混合した温水もしくは冷水或は単に温水もしくは冷水が噴出される(甲第二号証第三欄第二七行~第二九行)と記載されているように、洗剤による化学的洗滌力よりもむしろ温水の高温度と大流量と高衝撃圧力による物理的洗滌力によって右洗滌目的を達成するものであるから、洗條銃から大量の温水を長時間に亙って連続的に噴射する必要があり、したがって水源、貯湯室、温水タンクの構造は当然にそれに対応するものでなければならない。

ちなみに右本件考案の実施製品の送湯ポンプの吐出量は、七〇〇リツトル/時となっているが(添付カタログ、取扱説明書第二頁)、この送湯ポンプの吐出量の定格条件については従来装置もほぼ同様である(甲第六号証、甲第一七号証の一第一頁、甲第一四号証第九頁)。そして、このような吐出量を維持して右洗滌目的を達成するに要する時間(作業時間)は、小型車で約三〇分程度、大型車で約一時間三〇分~二時間程度である(原審昭和六三年三月一八日付原告第一回準備書面第二七頁)。

したがって、自動車用洗車装置である本件考案の水源は右洗車目的と機能を満足するべく、常時貯湯室を一定水位に維持し得る給水圧と給水量を有する自動給水源でなければならないものであるが、このことは仮に水源を自動給水源でないとした場合に請求の範囲記載の給湯配管構成によって右自動車用洗車装置に必要な送湯ポンプの吐出量を満足し得るか否かを考察すれば明らかである。

右本件考案の実施製品において、送湯ポンプの吐出量は七〇〇リツトル/時、温水タンクの容量は一八リツトル(添付取扱説明書)、貯湯室の容量は七〇リツトル(添付カタログ)である。すると、送湯ポンプの吐出量は一分間に約一二リツトルであるから、自動給水せずに温水タンク内に収容された温水をなくなるまで送湯ポンプにて吸入する場合、それに要する時間は僅かに一分半であり、右送湯ポンプの吐出量と洗車に必要な作業時間を満足するものではない。それに貯湯室の容量は温水タンクの容量の約四倍である。なお、貯湯室と温水タンクの容量を送湯ポンプの吐出量の七〇〇リツトルとするのは、洗車に必要な温度(約八〇度C)に加熱する時間が大きくかかり効率的でないと共に経済的でない。

したがって、本件考案においては、右その実施製品からも分るとおり、温水タンク内に収容された温水を一度にそれがなくなるまで送湯ポンプにて吸入吐出するものではなく、温水タンク内に常時一定水量に温水を貯留しておき、これを送湯ポンプにて連続的に吸入吐出することによってその吐出量を確保するものである。したがって、貯湯室からは温水タンクへ連続的に給湯する必要があると共に、その給湯分を自動的に補充するべく貯湯室に対し水源から自動的に給水する必要があるものである。

それ故温水タンクには水位調整によりその給水を自動的に制御するフロートバルブが内蔵されていなければならないし、貯湯室は水源からの自動給水を溢水するような大気開放のものではなく密閉構造のものであること当然である。

そして本件考案の水源と貯湯室の構造が右のものであることを前提としているからこそ、本件考案において当然必要な貯湯室からの給湯とその遮断を制御する手段として、フロートバルブを内蔵した温水タンクのみを開示しその他の手段を全く示していないのである。

なお、右の温水タンクに常時一定水位に温水を貯留しておきこれを送湯ポンプにて連続的に吸入吐出する態様の点は、原審決で周知例として援用された甲第六号証(甲第一七号証の一、二)および甲第一六号証の温水洗車機においても全く同様である。ちなみに、甲第六号証において、温水吐出量は七〇〇リツトル/時(約一二リツトル/分)、温水タンク容量は三〇リツトルであるから、温水タンク内に収容された温水をなくなるまで送湯ポンプにて吸入するに要する時間は、僅か二分半である。

4(1)本件考案が出願された昭和四五年当時、温水噴射により自動車の洗滌を行なう装置としては、温水供給手段として加熱コイル式ボイラーを用いたもの、即ち、水源(水道)から加熱コイル内に自動給水して順次温水となし、この温水を水源の給水圧にて連続的に給湯してフロートバルブ内蔵の温水タンク内に常時一定水位に貯留し、この温水タンク内の温水を送湯ポンプにて連続的に吸入し加圧して洗滌銃から噴射する構造のものであった(甲第六号証、甲第一七号証の一、二、甲第一六号証)。

この装置は右構造のため、ボイラーから温水タンクを介した送湯ポンプへの単位時間当りの温水供給量が制約されると共に、ボイラー内に常時所定温度の温水を所定水位に貯湯しておくことができないので使用の都度直ちに温水洗車を行なうことができず作業能率に優れない、又常時温水を供給できないため一般給湯等温水の多目的利用を図れない、更に凍結防止のための煩瑣なボイラー内の水抜き作業を必要とする等の問題点を有していた。

(2) 昭和四八年頃になっても、上告人のものを除き他社の温水洗車装置は、依然として右と同様の加熱コイル式ボイラーを用いたものであった(甲第一四号証)。

(3) 昭和五三、五四年頃になって、やっと他社においては本件考案と同様の貯湯式ボイラーを用いた温水洗車装置を開発するに至った(甲第一八号証、甲第二三号証)。しかしこのものは、本件考案と異なり貯湯室が大気に連絡した開放構造のために、貯湯室からの給湯圧は水源の給水圧が維持されず貯湯室の水頭圧となり、その結果貯湯室の高所や遠方への給湯ができず、温水の多目的利用の点で本件考案に比し劣るものである。又このものは自動車用洗車装置であるから当然に貯湯室に対する水源は自動給水源を用いているが、貯湯室が大気開放で溢水問題の関係上フロートバルブを貯湯室に配設して給水制御を図っており、加熱蒸気は貯湯室の大気開放口より除去されるため温水タンクを用いずに貯湯室と送湯ポンプを直接配管接続する構造となっている。

(4) これに対して本件考案は、他社がスチームクリーナーを改良して加熱コイル式ボイラーを用いて温水洗車をなす工夫に腐心していた昭和四五年に、それとは全く異なる貯湯式ボイラーを用い、温度調節器を介してボイラーの単独自動運転を図る等実用新案登録請求の範囲記載の構成(貯湯室に対する自動給水および温水タンクによる自動給水制御は当然の前提)を開発することによって、常時貯湯室内に所定温度の温水を大容量に貯湯し温水の即時供給を可能となし、もって右従来の洗車装置の問題点を抜本的に解消し得たものである。そして前記のとおり、本件考案と同様の貯湯式ボイラーを用いた他社の温水洗車装置の開発が本件考案の出願の八年後である点に鑑みれば、本件考案は出願時の技術水準を遙かに凌駕しているというべきである。

(5) 一方、引用例1のものは、水室3に対し水源から自動給水がなされるものではなく、水室3が分室(縦筒)5を介して大気開放であるため自動給水に適しない(自動給水すると分室5から溢水する)ものであり、又審決援用の周知例(甲第五号証)のものは、本件考案のフロートバルブ内蔵の温水タンクに相当するものを備えていないものである。したがって、引用例1、2および援用の周知例を仮に寄せ集めて見ても(これらは本来的に結合の必然性はないが)到底本件考案の構成に相当するものではない。このものは、右従来の洗車装置とも全く異質のものというべきである。

二 以上のとおり、本件考案の要旨の水源、貯湯室および温水タンクの構造の技術的意味は右のとおりであり、本件考案は、その目的を達成できず自動車用洗車装置の機能を満足しないような事項を必須の構成として加えて要旨を理解しなければならない理由は全くないものであるから、原判決は本件考案の明細書および図面の記載、自動車用洗車装置における水源、貯湯室および温水タンクの構造に関する技術的自明事項を含む出願時の技術水準を看過して本件考案の要旨を判断したものである。

よって、原判決には実用新案法第五条第三項、同第四項、同法第三条第二項を誤って解釈適用しており、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があり、破棄されるべきものである。

添付書類

一 宣誓供述書 一通

二 技術説明書 一通

三 カタログ(温水洗車機ナイスホツト) 一通

四 取扱説明書(同右) 一通

五 自動車用洗車装置の技術変遷一覧表 一通

以上

(添付書類省略)

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